壬生邸の庭

本と物語が好きな転勤族

2022-01-01から1ヶ月間の記事一覧

伝説と憂鬱

『伝説と憂鬱』 伝説というのは伝聞によって作られるのではないかと佳澄は思う。伝説の主人公は聖人でも英雄でもなく、ただその場に居合わせて彼らなりの立場をまっとうしただけなのだ。事実なんて本当はたいしたことじゃない。聞き手が物語を勝手に作ってい…

「こんにちわ」と「ゆって」は「考え」深い

こんにち「は」を こんにち「わ」、「い」って を 「ゆ」って、と書く人が少し苦手です。高校時代までは、まともに日本語も使えないのかよと思い、そういう人間を避けてきました。 しかし、大人になってもこういった人間は少なくないということに気づき、最…

公園の空

『公園の空』 五月の夕暮れは日が長い。定時過ぎに会社をひけたぼくは、この街を縦断している公園のベンチに沈み込んでいた。ビジネス街と繁華街を繋ぐこの公園は、帰りを急ぐ勤め人や買い物客で賑わっている。 夕日は公園を挟むようにしてそびえるビルに遮…

よんどしー

『よんどしー』 「あぅうー」と彼女がつぶやいた。 「何語?」 彼女はこたえず、上を向いて酸素の足りない金魚みたいに口をぱくぱくと開けた。 ぼくも見上げた。四月の少しかすみがかった空。 高層マンションと雑居ビルの建て込んだこのあたりでは空は狭い。…

雨の合間に

『雨の合間に』 小さな水滴が杏子(きょうこ)の鼻にぽつんとあたった。 低く雲のたれこめた空を見て、共用ガレージから出してきたばかりの自転車をしまい、傘を差して歩いていこうかとちらと思う。 ままよ、とペダルを踏んだのは今朝の天気予報が午後からは…