壬生邸の庭

本と物語が好きな転勤族

モンスター・デイドリーム

『モンスター・デイドリーム』


妹のミキがテレビをつけた。ヘリコプターから空撮されたとおぼしき映像には、十数階建ての高層マンションが紙くずのように潰されていく様がとらえられている。ヒステリックな実況レポーターの声が映像にかぶさる。
「消せよテレビ。鬱陶しい」
「おにいちゃん、こんどは木更津だって。すごいねえ」
 ミキは食い入るように画面を見つめている。直立した牡蠣のような姿がテレビに映った。ぼくはケータイのメール画面を閉じ、リビングを出て自室へ向かった。
 日本に巨大な生物が“降って”くるようになったのは一年前のことだ。最初の旭川を皮切りに岐阜、鳥取とほぼ正確に三ヶ月ごとに生物は飛来した。形態はさまざまだったが、五十メートルは超える巨大な体躯をもって思うままに都市を蹂躙し、数時間でこつ然と消え失せる。次のエックスデイと目されていた今日、英語の略称からジャムと呼ばれる奴らは律儀にもやってきた。
 一時は全国がパニック寸前まで追いつめられたが、ジャムが出現して数時間で姿を消すことと、毎回の被害範囲が直径五百メートル以内に収まっていることから人心は落ち着きを取り戻した。
 ジャムが“自分の街”にやってくる確率は低い。そして加熱する報道合戦を政府は黙認しているようだった。自衛隊でも手の打ちようが無いのだ。三ヶ月に一度の惨劇に人々の興味は集中した。
「くそっ」
 ケータイを握ったままぼくはベッドに身を投げ出した。そしてもう一度受信メールを開く。
『ツギハキサラヅ』
 昨日の日付のメールには確かにそう書かれている。送信者はぼく自身のアドレスになっていた。
「……ぼくなんかに予告して何のつもりなんだ」
 二階の窓から見える土曜の朝の街並は平穏そのもに見える。繁華街に近い自宅近くの通りには人影は少ない。
 みなテレビに釘付けになっているのだろう。そう思うとみぞおちがつかまれたような感覚とともに吐き気を覚えた。狂ってやがる。