壬生邸の庭

本と物語が好きな転勤族

紙の上にしか存在しない私は

『紙の上にしか存在しない私は』


「紙の上にしか存在しない私は」とタイプして手を止めた。
 紙の上にしか存在しない私は、紙の上にしか存在しないキーボードの上にテキストをタイプする。紙の上にしか存在しない私が書いたものと、いまここでタイプしている私が書いたテキストと。
 紙の上を見ることしかできない(あるいはPCのディスプレイを見ることしかできない)第三者にとって、区別はつかないに違いない。

“紙の上にしか存在しない私は涙を知らず、汗を知らず、眠りを知らず、ただ目を閉じて私の殻の割れるのを待っている。”

「じゃあ後はまかせた」
 念のためPCが待機モードに入らないように設定して、テキストエディタを開いたまま私は部屋を出た。
 永遠に。